日本人の森林浴は、森林浴⊃杜欲
日本における森というのは奥が深い。
森、というと、どのような景色を思い浮かべるだろうか?
きっと、あなたがイメージした場所を表す言葉は、他にもある。
山林、林、山、杜
山林、ではないんだよな
山、ともちょっと違うんだよな
杜、とは違う。
同じ場所を示す言葉でも、漢字にすると何か違和感を感じるだろう。
言葉でこの違いを明確に伝えるのは難しい。
山 yama
山は、 mountain をイメージする広大な場所をいうこともあれば、家の裏にある、人工林の生えている急斜面の場所を示すこともある。
木は生えていなくても山だったりする。
山林 sanrin
山林というと、山や森、同様の場所を示すこともあるが、土地として、資源としてその場所を示す時に使うことが多い。(山林所有、山林売買など)
林 hayashi
針葉樹林の人工林や同一の樹種が生えている場所を、林、ということもある。
同じ種類の木が、立ち並んでいるような場所、平坦な場所に生えている場合に使うことが多いが、日本の場合平坦な場所の方が少ないため、急斜面に生えていても林と言ったりする。
(斜面に生えていても、杉林、ヒノキ林のように、杉森、ヒノキ森とは聞かない)
では森はどんなところか?
森(森林) mori
木々がこんもり、盛り上がって生えている様子
複数の樹種がそこに群がり生えている場所
生き物のイメージもあり、循環も想像できる。
「森」ー「山林・林」=多様・生物・循環・天然
わたしには、こんなイメージがある。
「森とはどんな場所ですか?」
そう聞かれたら、わたしはこう答えている。
「そこで生態系の循環が感じられる場所」
そしてもう一つ、日本独特の言い表し方がある。
杜 mori
同じ「モリ」という読み方だが、森とは異なるイメージがある。
木々がこんもりと生えているだけでなく、そこには、土地の想いや神聖な雰囲気を感じる。
その土地で、代々守り続けてきた場所であり、
土地に暮らす人々の想いが込められている場所。
日本には各地にその土地を守る神様がいて、石や木など、そのものを神として祀っていた場所もある。
神社を守るように生えている木々の集まりには、杜という字がしっくりくる。
日本の森林浴は、かつては杜浴 だったのかもしれない。
そこに鳥居があるだけで、わたしたちはそこへ足を踏み入れる姿勢が変わる。
誰も見ていなくても、そこに何も書いていなくても、わたしとそこに、ある存在を感じる。
近年世界から注目を浴びている森林浴の魅力が、医学的なエビデンスによる健康効果だけでしっくりこないのは、日本人にとって森林浴は、杜欲 が含まれているから、なのかもしれない。
世界から多くの方が日本に訪れ、日本の森林浴に触れる時、わたしは日本人と森林の関係を丁寧にお伝えしたいと思う。
日本人が守り続けてきたこの国の森は、そこに樹木が群がり生え、生き物が共に暮らしている環境、だけでないことを。