森から生まれる新しい価値 — 森と未来 サステナブルアワード2025 レポート

第一回 森と未来サステナブルアワードを開催いたしました!
「森と未来 サステナブルアワード2025」は、“森と描く100年後の未来” をテーマに、森林の空間価値を活かした新しいアイデアやビジネスに挑む人・団体を応援するアワードです。
◆なぜ「森と未来 サステナブルアワード」をはじめたのか
日本は、国土の約7割が森林に覆われた、世界有数の森の国です。
戦後、未来を願って植えられた木々は今、立派に育ち、まさに「伐って使う」時期を迎えています。
かつては木を植え、育て、伐って使う——その循環の中で人々は森と共に暮らしてきました。
けれど近年、木材価格の低下や林業従事者の減少、人口減少などの影響で、その循環を続けることが難しくなっています。
一方で、都市で暮らす多くの人々は森から遠ざかり、便利な生活の裏で「ストレス」という目に見えない課題を抱えるようになりました。利便性や開発を優先してきた社会の中で、森の生態系にも変化が起きはじめています。それでも森は、いつも静かに私たちを癒し、支え、恵みを与えてくれます。
今の日本では、林業だけで山を守ることは難しい。だからこそ、木材生産以外の新しい価値——森に関わる多様なビジネスを生み出すことが必要です。「森林の空間価値」に光を当て、森と人の関係を広げ、森を活かしながら豊かさを生み出す。そんな思いから、森と未来サステナブルアワードは誕生しました。
◆評価や表彰をする目的は?
「アワード」と聞くと、「受賞者には賞金!」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、森と未来サステナブルアワードの目的は少し違います。
私たちが大切にしているのは、“森と人をつなぎ、豊かな森を未来に残すこと”。そのためには、森林を活用した新しいビジネスを生み出し、事業として持続可能な形で続けていくことが必要です。そこで私たちは、「賞金」ではなく、「事業の伴走支援(アクセラレーション)」を“賞”としました。
森と未来が直接サポートするだけでなく、この想いに共感し、日本の森の未来を共に考えてくださる企業の皆さまとも連携しながら、受賞者がより成長できる環境を整えています。また、審査には森林の専門家や行政、経営者、メディアなど多様な視点を取り入れ、広い意味での“森の価値”を見つめる体制をつくりました。
◆第一回アワードを振り返って
初めての開催ということもあり、応募があるのか少し不安もありました。
しかし蓋を開けてみると、30件を超える応募が集まり、そのどれもが「森と描く100年後の未来」を本気で考える、想いのこもったプロジェクトばかりでした。
応募内容を一つひとつ読み進めるたびに、その背景や挑戦、願いに触れ、まるで一緒に伴走しているような気持ちになりました。審査は本当に難しく、経済的な成果だけで測れない“森への想い”や“地域と生きる時間軸”の大切さを、改めて実感しました。
このアワードは、受賞をゴールにするものではなく、「これから一緒にどんな未来を育てていけるか」を考える、始まりの場です。
第一回森と未来サステナブルアワード2025 受賞者
厳正なる審査の結果、第一回「森と未来サステナブルアワード2025」では、以下の皆さまが受賞されました。
表彰式は2025年10月29日東京・神田明神ホールにて開催し、森の未来を想う多くの方々とともに、受賞者の皆さまの熱意と活動を称え合う、あたたかな時間となりました。

大賞
「土中環境オープンデータ」
Code for Ground 太田 直樹さん

多様な参加者の参加による「大地の健康診断」で、森林の状態や流域の暮らしを良くする市民科学プロジェクト。
https://groundopendata.notion.site
<審査の評価>
地域に根ざした測定文化を広げようとする発想は、森環境と人との新しい関わり方を提示する非常にユニークな取り組みだと感じました。データを活用して自然環境を“見える化“し、市民や企業が主体的に環境保全に関われる仕組みをつくる点に、大きな可能性を感じます。Civic Techの要素を取り入れながら、社会全体でNature Positiveを実現していこうとする姿勢は、時代の要請に合致した挑戦です。継続的な取り組みが、市民をはじめ地域と企業を結び、持続可能な未来を形づくる力になることを期待しています。
伴走支援
一般社団法人森と未来・王子ホールディングス株式会社・グローブライド株式会社・東京建物株式会社
グローブライド「Feel the earth. 」賞
「めぐる英彦山プロジェクト」
一般社団法人 山とめぐり 森下 右子さん

福岡県・英彦山を舞台に、ウェルネスツアーで心身の健康増進と地域活性化を図り、植樹による森づくりで山・川・海の好循環を再生する取り組み
<審査の評価>
日本古来の修験道の精神と現代のウェルネスを結びつけ、心身と自然の調和を目指す発想が大変ユニークで印象的でした。森づくりや流域再生といった幅広い活動領域を持ちながら、人と自然の関係性を再構築しようとする姿勢に強い共感を覚えます。地域の風土や歴史を踏まえた取組みは、文化的価値の再発見にもつながり、持続可能な暮らしのモデルとしても期待されます。今後、関係者との協働を重ねながら、より多くの人々に自然とつながる体験を届けていかれることを楽しみにしています。
伴走支援:グローブライド株式会社
「Feel the earth.―地球を感じ、生きていく。」をスローガンに、釣り具ブランド「DAIWA」をはじめ、ゴルフやラケット、サイクルスポーツを展開。自然と触れ合うスポーツを通じて、環境と調和した豊かな人生づくりと、持続可能な社会への意識向上に取り組んでいます。
王子ホールディングス「王子 100年の森」賞
「チェーンソーLOGGINGツアー」
株式会社百森 清水 美波さん

岡山県 西粟倉村のスギヒノキ人工林を舞台に、参加者が自らの手で伐倒まで体験できる2泊3日の研修型森林体験プログラム
<審査の評価>
伐採という森林を活用していく原点となる関わりを起点に、人と森の新しい関係性を提案する点が非常に魅力的でした。五感を使って自然と向き合う体験を通じて、森の循環や資源の価値を実感できる仕組みは、企業研修や教育プログラムとしても大きな可能性を秘めています。林業の現場に根ざしたリアルな体験を提供しつつ、森の未来を自分ごととして捉えるきっかけをつくるという姿勢に強く共感します。今後、企業や地域と連携しながら、多様な形で発展していくことを期待しています。
伴走支援:王子ホールディングス株式会社
紙の原料である木材を活かし、森を育てながら多様な事業を展開してきました。森林の多面的機能の発揮に努め、王子の森では自然教育やエコツアーを通じて学びと体験の場を提供。人と森が共に心地よく生きる未来の創造に取り組んでいます。
東京建物「大手町の森」賞
「森を守るクリスマスリースプロジェクト」
一般社団法人 森を守るクリスマスリース協会 恒吉 牧子さん

間伐材や枝葉などの林業副産物を活用し、花業界と協力したリース作りを通じて、森と人をつなぎ持続可能な資源利用を広げる循環型プロジェクト
<審査の評価>
「リースづくり」という身近な体験を通じて、子どもから大人まで幅広い人々が森と関わるきっかけを生み出している点がとても魅力的でした。楽しみながら森林資源の循環を体感できる仕組みは、参加型の環境教育や地域活性にもつながる優れたアプローチだと思います。地域の素材を生かした活動には温かみがあり、季節の行事を通じて自然とのつながりを再発見できる点も印象的です。今後、企業や地域との連携が進むことで、さらに持続的で広がりのあるプロジェクトへ発展していくことを期待しています。
伴走支援:東京建物株式会社
「お客様第一」と進取の精神を原点に、多様な不動産開発を展開。大手町タワーでは敷地の約3分の1を「大手町の森」として整備し、人にも生き物にも心地よい自然共生の空間を創出。ウェルビーイングや生物多様性への関心を高めるイベントも開催しています。
審査員特別賞
「ケアリングフォレスト」
合同会社ヘリテッジキーパー 青木 薫さん

森と人、ケアする人とケアされる人のポジティブな相互作用を促進する「保育・教育・福祉関係者へのケアリングフォレスト研修」「ケアされる人の森林体験」を提供
<審査の評価>
「ケアする人を、森林体験を通じてケアする」という発想がとても新鮮で、社会的意義の高い取り組みだと感じました。障がいのある子どもたちや支援者が、自然の中で安心して過ごせる場を創出している点も素晴らしく、森林の持つ癒しや回復の力を多様な人々に開いていく姿勢に深く共感します。プログラムとしての構成も明確で、今後の展開次第では森林療法やウェルビーイング分野にも新たな価値をもたらす可能性を感じます。人と森が互いを支え合う関係を実現する取り組みとして、今後の発展を大いに期待しています。
受賞されたビジネスは、森と未来と協賛企業毎のチームによって、ビジネスの実現や促進に向けて伴走支援が行われます。
2025年11月〜2026年3月 支援の調整期間
2026年4〜9月 実際の事業伴走支援
2026年 年内 デモデイ(成果発表会)を実施

